工学を学ぶ学生さんなら一度は直面する伝熱工学。難解な数式や抽象的な概念に頭を悩ませたことがあるのではないでしょうか?本記事では理論と日常をつなげながら、伝熱工学の基礎を丁寧に解説します。
はじめに
大学や高専で工学を学んでいると、必ず壁にぶつかる科目があります。伝熱工学はその代表格ではないでしょうか。熱力学と流体力学が融合した複雑な内容に、多くの学生が苦戦しています。しかし実は、私たちの身の回りは伝熱現象であふれているのです。この記事では伝熱工学の基礎的な概念を、身近な例を通じてわかりやすく解説していきます。難解に思える数式の意味を理解し、試験対策やレポート作成に役立つ知識を身につけることができます。
伝熱工学とは?身近な熱移動現象から理解する基礎概念
伝熱工学は「熱がどのように移動するか」を扱う学問です。一見すると複雑に思えるかもしれませんが、実は私たちの日常生活のあらゆる場面で伝熱現象が起きています。熱は必ず温度の高いところから低いところへと移動するという基本原理を覚えておくと理解が進みやすいでしょう。
熱の移動は自然界の基本法則に従っており、エネルギー保存の法則(熱力学第一法則)やエントロピー増大の法則(熱力学第二法則)と密接に関連しています。これらの原理を数学的に表現したものが、伝熱工学で学ぶ様々な方程式の基礎となっています。
伝熱工学の定義と学ぶ意義
伝熱工学とは、熱エネルギーの移動メカニズムとその速度を定量的に扱う工学の一分野です。熱力学が「系の状態変化」に焦点を当てるのに対し、伝熱工学は「熱の移動過程」そのものを研究します。熱力学が「何が起こるか」を教えてくれるなら、伝熱工学は「どのように、どれくらいの速さで起こるか」を教えてくれる学問だと言えるでしょう。
工学系の学生にとって伝熱工学を学ぶ意義は計り知れません。発電所、エンジン、空調設備、電子機器の冷却など、ほとんどの工業製品の設計には伝熱の知識が不可欠です。例えば、コンピュータのCPUが過熱しないようにするためには、発生した熱をいかに効率よく逃がすかという伝熱の問題を解決する必要があります。
日常生活に潜む3つの熱移動現象
熱の移動には大きく分けて「伝導」「対流」「放射」の3つの形態があります。これらは単独で起こることもあれば、複合的に発生することもあります。
熱伝導は、物質内部での熱の移動です。金属のスプーンを熱いスープに入れると、持ち手の部分まで熱くなりますよね。これは金属内部で熱が伝導しているためです。物質の中の分子が直接接触して熱エネルギーを伝えていくイメージです。
熱対流は、流体(液体や気体)の移動に伴う熱の輸送です。部屋を暖房で温めると、暖かい空気が上昇し、冷たい空気が下降する対流が生じます。この空気の流れによって熱が運ばれるのが熱対流です。
熱放射は、物体が電磁波の形で熱を放出する現象です。太陽の熱が地球に届くのは熱放射によるものです。真空中でも伝わるという点が、伝導や対流と大きく異なります。冬に暖炉の前に立つと、火に面した側が暖かく感じるのも熱放射の一例です。
伝熱工学の応用分野
伝熱工学の知識は様々な工学分野で活用されています。いくつか代表的な例を見てみましょう。
エネルギー分野では、発電所のボイラー設計、太陽光発電パネルの効率向上、燃料電池の熱管理などに伝熱工学の知識が不可欠です。例えば、火力発電所ではボイラー内の熱伝達効率を高めることで、同じ燃料からより多くの電力を生み出すことができます。
機械工学分野では、エンジンの冷却システム設計、自動車の空調設備、工業用熱交換器の最適化などに応用されています。自動車エンジンが適切な温度範囲で動作するよう、冷却水による熱の除去を精密に制御する必要があります。
建築分野では、断熱材の選定、暖房・冷房システムの設計、窓ガラスの熱特性評価などに伝熱工学の原理が活用されています。例えば、「断熱等級」や「省エネ基準」は伝熱工学に基づいた指標です。
電子工学分野では、半導体デバイスの冷却、データセンターの温度管理、LED照明の熱対策などが重要な課題です。現代のコンピュータは高性能化に伴い発熱量も増加しており、効率的な冷却設計が製品寿命に大きく影響します。
日常生活から最先端技術まで、伝熱工学の原理は私たちの生活を支える重要な役割を果たしています。基礎概念をしっかり理解すれば、様々な現象や技術の仕組みが見えてくるでしょう。
熱伝導のメカニズムと基礎方程式
熱伝導は3つの熱移動形態の中で最も基本的なものです。固体内部での熱の移動を主に扱いますが、静止した流体内でも熱伝導は発生します。熱伝導は温度差があるところならどこでも起こり、温度勾配に比例して熱が移動するという特徴があります。伝熱工学を学ぶ上で、まず熱伝導の原理をしっかり理解することが重要です。
熱伝導の物理的意味
熱伝導は分子レベルでの現象です。物質を構成する分子や原子は常に振動していますが、温度が高いほどその振動エネルギーは大きくなります。隣り合う分子間ではこの振動エネルギーのやり取りが行われ、結果として高温側から低温側へエネルギーが移動していきます。
金属の場合は特殊で、自由電子が熱エネルギーの運搬役となります。これが金属の熱伝導率が高い理由の一つです。実際、電気をよく通す金属は熱もよく通すという関係(ヴィーデマン・フランツの法則)があります。
面白いのは、熱伝導では物質自体は移動せず、エネルギーだけが移動するという点です。熱は温度の高い場所から低い場所へと「流れる」と表現しますが、実際に物質が流れているわけではありません。これは電流や水流とは異なる熱伝導の重要な特徴です。
フーリエの法則を理解する
熱伝導の基本法則として、フーリエ(Fourier)の法則があります。これは19世紀初頭にフランスの数学者・物理学者であるジョゼフ・フーリエによって提唱されました。基本的な一次元の場合、次のように表されます。
q = -k(dT/dx)
ここで:
- q:熱流束(単位面積当たりの熱移動量)[W/m²]
- k:熱伝導率(物質固有の値)[W/(m・K)]
- dT/dx:温度勾配(単位距離当たりの温度変化)[K/m]
- マイナス記号:熱が温度の高い方から低い方へ流れることを表す
この式の物理的意味は、「熱の流れる量は温度の変化率に比例する」ということです。例えば、同じ材料でも、温度差が2倍になれば熱の流れる量も2倍になります。また、距離が2倍になると(同じ温度差でも)熱の流れる量は半分になります。
フーリエの法則を三次元に拡張すると、ベクトル形式で次のように表されます。
q = -k∇T
ここで∇Tは温度の勾配ベクトルを表します。これにより、三次元空間内のあらゆる方向への熱流束を計算できるようになります。
熱伝導率の概念
熱伝導率(k)は、物質がどれだけ熱を伝えやすいかを示す物性値です。単位は[W/(m・K)]で表されます。熱伝導率が大きいほど、熱を伝えやすい物質といえます。
身近な物質の熱伝導率を比較してみましょう:
- 銀:約429 W/(m・K)
- 銅:約398 W/(m・K)
- アルミニウム:約237 W/(m・K)
- 鉄:約80 W/(m・K)
- コンクリート:約1.5 W/(m・K)
- 水:約0.6 W/(m・K)
- 空気:約0.026 W/(m・K)
- 断熱材(グラスウール):約0.04 W/(m・K)
この数値からわかるように、金属は熱を伝えやすく、空気や断熱材は熱を伝えにくくなっています。断熱材の多くは、実は内部に多くの空気を含んでいるため熱伝導率が低いのです。スタイロフォームやグラスウールなどの断熱材は、小さな空気の層を多数含む構造になっています。
熱伝導率は温度によって変化することも覚えておきましょう。多くの場合、温度上昇とともに固体の熱伝導率は低下し、気体の熱伝導率は上昇する傾向があります。この温度依存性は、精密な熱設計を行う際に考慮する必要があります。
熱伝導方程式を解くときには、この熱伝導率の値を正確に把握することが重要です。例えば家の断熱性能を計算する場合、壁材や断熱材の熱伝導率に基づいて必要な断熱材の厚さを決定します。また、電子機器の放熱設計では、半導体材料や放熱材の熱伝導率を考慮して最適な冷却方法を選びます。
材料の熱伝導率の違いを理解することは、私たちの身の回りの現象も説明できるようになります。例えば、冬に金属とウッドデッキを素足で触ったとき、金属の方がずっと冷たく感じるのは、金属の熱伝導率が高く、足の熱を素早く奪うからです。実際の温度は同じでも、熱の移動速度の違いが体感温度に大きく影響するのです。
対流熱伝達の基本と計算方法
対流熱伝達は、流体(液体や気体)の流れによって熱が運ばれる現象です。私たちの日常生活でも、お風呂の湯の対流、部屋の暖房による空気の循環など、多くの場面で対流熱伝達を目にしています。対流は流体運動と熱移動が組み合わさった複雑な現象であるため、熱伝導よりも数学的な取り扱いが難しくなります。しかし、いくつかの基本概念を理解すれば、対流熱伝達の本質が見えてくるでしょう。
自然対流と強制対流の違い
対流熱伝達は、流体の流れがどのように生じるかによって「自然対流」と「強制対流」の2種類に分けられます。
自然対流は、温度差によって生じる流体の密度差が原動力となって起こる流れです。温められた流体は膨張して密度が下がり、浮力によって上昇します。冷えた流体は密度が高くなって下降します。このような流体の自然な動きによって熱が運ばれる現象を自然対流と呼びます。
身近な例としては:
- 部屋の暖房器具の周りで暖められた空気が上昇する現象
- 鍋で水を温めると、底の温められた水が上昇し、上部の冷たい水が下降する循環
- 地球規模での大気や海洋の循環の一部
一方、強制対流は、ポンプやファン、あるいは外部からの圧力差など、温度差以外の力によって流体を強制的に動かすことで生じる熱伝達です。
強制対流の例:
- エアコンやファンヒーターで空気を強制的に循環させる冷暖房
- 自動車のラジエーターを冷却するための水とファンの組み合わせ
- コンピュータのCPU冷却用のファンと放熱フィン
自然対流と強制対流では、熱伝達の効率に大きな違いがあります。一般的に、強制対流の方が熱伝達係数が大きく、効率的に熱を移動させることができます。これは、強制対流では流速を自由に制御できるため、境界層(物体表面近くの流れが遅い層)を薄くすることができるからです。
実際の工学的な問題では、自然対流と強制対流が混在する「混合対流」の状態も多く見られます。両者の効果の大きさを比較するために、グラスホフ数(Gr)とレイノルズ数(Re)の二乗の比(Gr/Re²)を用いることが多いです。この値が1に近いときは混合対流、大きいときは自然対流が支配的、小さいときは強制対流が支配的と判断できます。
対流熱伝達係数の考え方
対流熱伝達を数式で表現する際には、ニュートンの冷却則が用いられます:
q = h(Ts – T∞)
ここで:
- q:熱流束(単位面積当たりの熱移動量)[W/m²]
- h:対流熱伝達係数 [W/(m²・K)]
- Ts:物体表面の温度 [K]
- T∞:十分離れた場所の流体温度(主流温度) [K]
この式の中で最も重要なのが対流熱伝達係数 h です。この係数は、どれだけ効率的に熱が表面と流体の間でやり取りされるかを表す指標になります。
対流熱伝達係数 h の値は、以下の要素に依存します:
- 流体の種類(空気、水、油など)
- 流体の流れの状態(層流か乱流か)
- 流速
- 流体の物性値(密度、粘度、熱伝導率、比熱など)
- 物体の形状と表面状態
- 温度差
対流熱伝達係数の大まかな値は以下のとおりです:
- 自然対流(空気):3~20 W/(m²・K)
- 強制対流(空気):10~200 W/(m²・K)
- 自然対流(水):50~1,000 W/(m²・K)
- 強制対流(水):500~10,000 W/(m²・K)
- 沸騰熱伝達:2,500~100,000 W/(m²・K)
- 凝縮熱伝達:5,000~100,000 W/(m²・K)
実際の工学的問題では、この対流熱伝達係数を正確に予測することが重要になります。しかし、流体の流れと熱移動の連成問題は非常に複雑であるため、多くの場合は実験に基づく相関式が用いられます。
無次元数(レイノルズ数・ヌセルト数など)の意味
対流熱伝達を理解し計算するために、いくつかの重要な無次元数が使われます。これらは流れの特性や熱伝達の効率を表す指標となります。
**レイノルズ数(Re)**は、流体の慣性力と粘性力の比を表します:
Re = ρvL/μ = vL/ν
ここで:
- ρ:流体の密度 [kg/m³]
- v:流体の速度 [m/s]
- L:代表長さ [m]
- μ:流体の粘度 [Pa・s]
- ν:動粘度(= μ/ρ)[m²/s]
レイノルズ数が小さいときは層流、大きいときは乱流となります。一般的に、平板では Re≒5×10⁵、円管では Re≒2300が層流から乱流への遷移点とされています。乱流では流体の混合が活発になるため、熱伝達係数が大きくなるという重要な性質があります。
**プラントル数(Pr)**は、運動量拡散率と熱拡散率の比を表します:
Pr = ν/α = μcp/k
ここで:
- α:熱拡散率 [m²/s]
- cp:定圧比熱 [J/(kg・K)]
- k:熱伝導率 [W/(m・K)]
プラントル数は流体の特性を表し、流れの速度分布と温度分布の関係を示します。水のプラントル数は約7、空気では約0.7です。
**ヌセルト数(Nu)**は、対流熱伝達と伝導熱伝達の比率を表します:
Nu = hL/k
ここで:
- h:対流熱伝達係数 [W/(m²・K)]
- L:代表長さ [m]
- k:流体の熱伝導率 [W/(m・K)]
ヌセルト数が大きいほど、対流による熱伝達が支配的であることを意味します。実用的な対流熱伝達の計算では、このヌセルト数を求める相関式が多く提案されています。例えば、平板上の層流強制対流の場合:
Nu = 0.332 Re^(1/2) Pr^(1/3)(層流・等温壁の場合)
乱流の場合は:
Nu = 0.0296 Re^(4/5) Pr^(1/3)(乱流・等温壁の場合)
このように、実験的に導かれた相関式を用いることで、複雑な対流熱伝達問題も比較的簡単に解くことができます。無次元数を使うことの利点は、異なるスケールや条件の問題でも同じ式が適用できる点にあります。これが「相似則」と呼ばれる重要な考え方です。
工学的な熱設計では、これらの無次元数と相関式を活用して、効率的な冷却システムや熱交換器の設計が行われています。理論の本質を理解することで、より効果的な熱管理が可能になるのです。
熱放射の原理と計算の基礎
熱放射は、伝導や対流とは全く異なるメカニズムで熱を伝えます。熱放射は物体から電磁波として放出され、真空中でも伝わる唯一の熱移動形態です。太陽の熱が地球に届くのも、電子レンジで食品が温まるのも、この熱放射の原理によるものです。高温になるほど熱放射の影響は大きくなり、高温工学では特に重要な熱移動形態となります。
電磁波としての熱放射
熱放射は電磁波の一種で、主に赤外線領域(波長約0.75~1000μm)のものを指します。ただし、高温になると可視光線や紫外線の領域にも及びます。例えば、鉄が「赤熱」や「白熱」する現象は、高温になることで放射される電磁波の波長分布が変化し、目に見える光を発するようになるためです。
熱放射には以下のような特徴があります:
- 物質を介さずに伝わる(真空中でも伝播する)
- ほぼ光速で移動する
- 温度の4乗に比例して強くなる
- 物体の表面性状や色に大きく影響される
- 波長によって特性が異なる
熱伝導や熱対流と熱放射の根本的な違いは、前者は物質を介して熱エネルギーを伝えるのに対し、後者は電磁波として熱エネルギーを運ぶ点にあります。このため、真空断熱ボトルでは熱伝導と対流を抑えるために真空層を設けていますが、熱放射を抑えるには内壁を鏡面加工して反射率を高める工夫が必要になります。
ステファン・ボルツマンの法則
熱放射による熱移動の基本法則として、ステファン・ボルツマンの法則があります。これは物体の絶対温度の4乗に比例して放射エネルギーが増加することを示すもので、次のように表されます:
E = σT⁴
ここで:
- E:黒体の放射エネルギー [W/m²]
- σ:ステファン・ボルツマン定数(5.67×10⁻⁸ W/(m²・K⁴))
- T:物体の絶対温度 [K]
この式から分かるように、温度が2倍になると、放射エネルギーは16倍(2⁴)に増加します。これが高温になるほど放射が重要になる理由です。例えば、1000°C(1273K)の物体からの放射は、100°C(373K)の物体からの放射の約130倍にもなります。
実際の物体は理想的な黒体(すべての放射を吸収する仮想的な物体)ではないため、放射率(ε)という係数を導入して次のように修正します:
E = εσT⁴
放射率は物体の表面性状や材質によって決まり、0から1の間の値をとります。黒体の放射率は1、完全な反射体(鏡面)の放射率は0です。一般的な物質の放射率は:
- 黒色塗装面:0.9~0.98
- 白色塗装面:0.9~0.95
- 酸化した金属面:0.5~0.8
- 研磨した金属面:0.05~0.3
2つの物体間の放射熱交換を考える場合、ステファン・ボルツマンの法則を拡張して次のように表します:
q = σF₁₂ε₁ε₂(T₁⁴ – T₂⁴)
ここで:
- q:単位面積当たりの正味の放射熱伝達量 [W/m²]
- F₁₂:形態係数(後述)
- ε₁, ε₂:それぞれの物体の放射率
- T₁, T₂:それぞれの物体の絶対温度 [K]
放射率と形態係数
熱放射の計算で特に重要な2つの要素について、もう少し詳しく見ていきましょう。
**放射率(ε)**は、物体が理想的な黒体と比較してどれだけ効率的に放射エネルギーを放出・吸収できるかを表す無次元数です。放射率は物質の種類だけでなく、表面処理、酸化の程度、温度、放射の波長などによっても変わります。
放射率に関する重要な法則として、キルヒホッフの法則があります。これは「良い放射体は良い吸収体である」ことを示しており、熱平衡状態では物体の放射率と吸収率は等しくなります。このため、放射を多く放出する黒い物体は放射も多く吸収します。これが夏に黒い服を着ると暑く感じる理由の一つです。
**形態係数(F₁₂)**は、ある面から放出された放射エネルギーのうち、別の面に到達する割合を表す幾何学的な係数です。これは2つの面の相対的な位置、大きさ、向きによって決まります。形態係数は0から1の値をとり、二つの面が互いに完全に「見える」場合は1に近づき、ほとんど「見えない」場合は0に近づきます。
形態係数の計算は複雑な積分を含むことが多いですが、よく使われる配置(平行な平板、同心円筒、直交する平板など)については既に計算式が導出されています。複雑な形状の場合は、コンピュータシミュレーションを用いることが一般的です。
形態係数には以下の重要な性質があります:
- 相反則:A₁F₁₂ = A₂F₂₁(A は面積)
- 総和則:ある閉じた空間内の全ての形態係数の和は1
例えば、2つの同心球の間の形態係数は、内側の球から見ると外側の球が全方向に見えるので F₁₂ = 1 となります。一方、外側の球から見ると内側の球は一部しか見えないので F₂₁ < 1 となります。
放射熱伝達の実際の計算では、「総合放射係数」というアプローチもよく用いられます。これは形態係数と放射率を組み合わせて、次のような形で熱伝達を表現します:
q = hr(T₁ – T₂)
ここで hr は放射熱伝達係数で、以下のように定義されます:
hr = σε₁₂F₁₂(T₁² + T₂²)(T₁ + T₂)
このアプローチを使うと、放射熱伝達も対流や伝導と同じような形式で扱うことができ、計算が簡便になります。
熱放射を理解することは、特に高温プロセスの設計や宇宙機器の熱制御において非常に重要です。例えば、宇宙空間では対流がないため、熱制御は伝導と放射のみで行う必要があります。また、高温の工業炉や燃焼装置では、放射による熱伝達が支配的になるため、その特性を正確に把握することが効率的な設計につながります。
熱交換器の基本設計と伝熱解析
熱交換器は、2つ以上の流体間で熱を効率的に移動させるための装置です。発電所、化学プラント、自動車のラジエーター、家庭用エアコンなど、様々な場所で使用されています。工学の世界では、エネルギーの効率的な利用のために熱交換器の最適設計が非常に重要となっています。この章では、熱交換器の基本原理と設計方法について学びましょう。
熱交換器の種類と特徴
熱交換器は構造や流れ方向によって様々なタイプに分類されます。主要なものをいくつか見ていきましょう。
二重管式熱交換器(管内管式熱交換器)は、最も基本的な構造で、1本の管の中にもう1本の管を同心円状に配置したものです。2つの流体は内管と外管の間の環状部分と内管内部を流れます。構造が単純で理解しやすく、小規模な熱交換に適しています。
シェルアンドチューブ式熱交換器は、多数の細管(チューブ)を円筒形の外殻(シェル)内に配置した構造です。一方の流体はチューブ内を通り、もう一方の流体はシェル側(チューブの外側)を通ります。工業的に最も広く使われているタイプで、大容量の熱交換が可能です。圧力や温度の差が大きい場合にも適しています。
プレート式熱交換器は、薄い金属プレートを多数重ね合わせた構造で、プレート間に交互に2種類の流体を流します。コンパクトで伝熱効率が高いのが特徴です。食品業界や製薬業界など、衛生面が重要な用途でよく使われます。分解して洗浄できるという利点もあります。
フィン付き熱交換器は、伝熱面積を増やすためにフィン(薄い板状または針状の突起)を付けた熱交換器です。主に気体と液体間の熱交換(例:自動車のラジエーター、エアコンの室外機など)に使用されます。気体側の熱伝達率が低いため、フィンで表面積を増やすことで効率を向上させます。
流れの方向による分類もあります:
- 並流型:2つの流体が同じ方向に流れる
- 向流型:2つの流体が反対方向に流れる
- 直交流型:2つの流体が互いに直角方向に流れる
向流型は熱交換効率が最も高く、理論的には低温側流体を高温側流体の入口温度近くまで加熱することができます。実用的な熱交換器設計では、しばしば向流型が選ばれる理由はこの高効率にあります。
総括伝熱係数の求め方
熱交換器の性能を表す重要なパラメータとして、「総括伝熱係数(U)」があります。これは、熱交換器内の複合的な熱移動過程(伝導、対流、場合によっては放射)を一つの係数で表したものです。単位は[W/(m²・K)]で、値が大きいほど効率的に熱交換ができることを意味します。
単純な平板での熱移動を考えると、総括伝熱係数は以下のように表されます:
1/U = 1/h₁ + δ/k + 1/h₂ + Rf
ここで:
- h₁, h₂:それぞれの流体側の対流熱伝達係数 [W/(m²・K)]
- δ:壁の厚さ [m]
- k:壁材料の熱伝導率 [W/(m・K)]
- Rf:汚れ係数(ファウリング抵抗)[m²・K/W]
この式から分かるように、総括伝熱係数は「熱抵抗」の考え方に基づいています。電気回路のオームの法則と同様に、熱の流れも抵抗の逆数に比例するという考え方です。総括伝熱係数の逆数(1/U)は、各部分の熱抵抗の合計になります。
円管の場合は、内側と外側で伝熱面積が異なるため、基準となる面積を決める必要があります。例えば外側表面積を基準にすると:
1/UₒAₒ = 1/(h₁A₁) + ln(rₒ/r₁)/(2πLk) + 1/(hₒAₒ) + Rf
ここで、添え字のi, oはそれぞれ内側と外側を表します。
実際の熱交換器設計では、このような理論式から計算するだけでなく、実験データや経験則に基づく値も重要です。例えば、一般的な熱交換器の総括伝熱係数のおおよその値は以下のとおりです:
- 水-水の熱交換:850~1700 W/(m²・K)
- 水-油の熱交換:110~350 W/(m²・K)
- 水-ガスの熱交換:20~300 W/(m²・K)
また、運転時間の経過とともに熱交換器表面に汚れが付着すると、熱抵抗が増加して総括伝熱係数が低下します。この影響を設計段階で考慮するために、「汚れ係数」を加えておくことが一般的です。
対数平均温度差による熱計算
熱交換器内の熱移動量を計算するための基本式は次のとおりです:
Q = UA・LMTD
ここで:
- Q:熱交換量 [W]
- U:総括伝熱係数 [W/(m²・K)]
- A:伝熱面積 [m²]
- LMTD:対数平均温度差 [K]
対数平均温度差(LMTD: Log Mean Temperature Difference)は、熱交換器内の温度差の平均的な値を表す指標です。並流型と向流型で次のように計算されます:
LMTD = (ΔT₁ – ΔT₂)/ln(ΔT₁/ΔT₂)
ここで、並流型の場合:
- ΔT₁ = Th,in – Tc,in(高温側入口温度 – 低温側入口温度)
- ΔT₂ = Th,out – Tc,out(高温側出口温度 – 低温側出口温度)
向流型の場合:
- ΔT₁ = Th,in – Tc,out(高温側入口温度 – 低温側出口温度)
- ΔT₂ = Th,out – Tc,in(高温側出口温度 – 低温側入口温度)
なぜ単純な算術平均ではなく対数平均を使うのかというと、熱交換器内の温度差は流れに沿って指数関数的に変化するためです。対数平均温度差を使うことで、この非線形性を正確に反映することができます。
直交流型や多管式など、より複雑な熱交換器の場合は、対数平均温度差に補正係数(F)を掛けることがあります:
Q = UA・F・LMTD
この補正係数は、熱交換器の構造や流れの配置によって異なり、グラフや数表から求めることが多いです。
熱交換器の設計では、必要な熱交換量Q、流体の入口温度と流量が与えられた場合に、必要な伝熱面積Aを求めることが一般的です。その手順は次のようになります:
- 熱収支から流体の出口温度を求める
- 対数平均温度差(LMTD)を計算する
- 流体の物性値から熱伝達係数を推定し、総括伝熱係数(U)を算出する
- 必要な伝熱面積 A = Q/(U・LMTD) を計算する
- 安全率を考慮して実際の設計に反映する
また、熱交換器の性能評価には「有効度(ε)」という指標も使われます。これは実際の熱交換量を理論的な最大熱交換量で割った値で、0から1の間の値をとります。有効度が高いほど、効率の良い熱交換器といえます。
熱交換器設計では、熱伝達効率だけでなく、圧力損失、製造コスト、設置スペース、メンテナンス性など、多くの要素を総合的に考慮する必要があります。例えば、伝熱面積を増やすと熱交換効率は向上しますが、同時に圧力損失やコストも増加します。実際の設計では、これらのトレードオフを考慮した最適化が行われます。
演習問題で学ぶ伝熱計算の実践
伝熱工学の理論を真に理解するためには、実際に問題を解いてみることが重要です。この章では、典型的な伝熱問題とその解法を紹介します。計算の過程を丁寧に追うことで、理論と実践をつなぎ、応用力を身につけることができるでしょう。それぞれの問題では、考え方のポイントや解法のコツも解説します。
定常一次元熱伝導問題
定常一次元熱伝導は、伝熱工学の最も基本的な問題です。時間変化がなく(定常)、1方向のみに温度変化がある(一次元)状況を考えます。
【問題1】平板の熱伝導
厚さ10cmのコンクリート壁があります。内側の表面温度は20℃、外側の表面温度は0℃です。コンクリートの熱伝導率が1.5 W/(m·K)のとき、単位面積当たりの熱流束と壁の中央の温度を求めてください。
解法:
フーリエの法則を適用します。一次元定常状態では:
q = -k(dT/dx) = -k(T₂-T₁)/L
ここで:
- q:熱流束 [W/m²]
- k:熱伝導率 = 1.5 W/(m·K)
- T₁:内側表面温度 = 20℃
- T₂:外側表面温度 = 0℃
- L:壁の厚さ = 0.1m
熱流束を計算すると:
q = -1.5×(0-20)/0.1 = 300 W/m²
壁の中央の温度は、内側からの距離が0.05mの点の温度になります。定常一次元熱伝導では温度分布は線形になるので:
T(x) = T₁ + (T₂-T₁)×(x/L)
T(0.05) = 20 + (0-20)×(0.05/0.1) = 20 + (-20)×0.5 = 20 – 10 = 10℃
このように、定常一次元熱伝導では温度分布が直線になることを利用して、任意の位置の温度を簡単に求めることができます。
【問題2】円筒壁の熱伝導
内径5cm、外径7cmの鋼鉄管を考えます。内側表面温度が200℃、外側表面温度が80℃、鋼鉄の熱伝導率が45 W/(m·K)のとき、単位長さ当たりの熱移動量を求めてください。
解法:
円筒形状では、熱は半径方向に流れます。この場合のフーリエの法則は次のようになります:
q = 2πkL(T₁-T₂)/ln(r₂/r₁)
ここで:
- q:単位長さ当たりの熱移動量 [W/m]
- k:熱伝導率 = 45 W/(m·K)
- L:管の長さ(ここでは単位長さ1mを考える)
- T₁:内側表面温度 = 200℃
- T₂:外側表面温度 = 80℃
- r₁:内半径 = 0.025m
- r₂:外半径 = 0.035m
計算すると:
q = 2π×45×1×(200-80)/ln(0.035/0.025)
= 2π×45×120/ln(1.4)
= 2π×45×120/0.336
= 2π×45×120×2.976
= 101,120 W/m
平板と異なり、円筒では温度分布は対数関数になります。これは伝熱面積が半径とともに変化するためです。
T(r) = T₁ + (T₂-T₁)×ln(r/r₁)/ln(r₂/r₁)
例えば、r = 0.03mでの温度は:
T(0.03) = 200 + (80-200)×ln(0.03/0.025)/ln(0.035/0.025)
= 200 + (-120)×ln(1.2)/ln(1.4)
= 200 + (-120)×0.182/0.336
= 200 + (-120)×0.542
= 200 – 65 = 135℃
【問題3】複合壁の熱伝導
3層からなる複合壁があります。内側から順に、厚さ1cmのアルミニウム板(k₁=237 W/(m·K))、厚さ5cmの断熱材(k₂=0.04 W/(m·K))、厚さ2cmのコンクリート板(k₃=1.5 W/(m·K))です。内側表面温度が50℃、外側表面温度が10℃のとき、単位面積当たりの熱流束と各層の境界面の温度を求めてください。
解法:
複合壁では、定常状態では各層を通過する熱流束は等しくなります。熱抵抗の概念を使って解きましょう。
全体の熱抵抗は:
R = L₁/k₁ + L₂/k₂ + L₃/k₃
= 0.01/237 + 0.05/0.04 + 0.02/1.5
= 0.000042 + 1.25 + 0.013
= 1.263 m²·K/W
熱流束は:
q = (T₁-T₂)/R
= (50-10)/1.263
= 31.7 W/m²
第1層と第2層の境界温度(T₁₂)は:
T₁₂ = T₁ – q×(L₁/k₁)
= 50 – 31.7×0.000042
= 50 – 0.0013
= 49.999℃ ≈ 50℃(アルミニウムの熱抵抗は非常に小さいため)
第2層と第3層の境界温度(T₂₃)は:
T₂₃ = T₁₂ – q×(L₂/k₂)
= 50 – 31.7×1.25
= 50 – 39.6
= 10.4℃
この例から分かるように、断熱材のような熱伝導率の低い材料は温度降下の大部分を担っています。これが断熱材の役割であり、わずか5cmの厚さで約40℃もの温度差を生み出しています。
非定常熱伝導の基本
非定常熱伝導は、時間とともに温度が変化する状況を扱います。完全な解析解を得るのは難しい場合が多いですが、いくつかの単純化した方法で近似解を得ることができます。
【問題4】集中熱容量法による冷却過程の解析
質量1kg、比熱500 J/(kg·K)の鉄球があります。初期温度が100℃の鉄球を20℃の環境に置いたとき、熱伝達係数が10 W/(m²·K)、球の直径が10cmであれば、30分後の球の温度を求めてください。
解法:
集中熱容量法では、物体内の温度分布を無視し、物体全体が一様な温度を持つと仮定します。これは、物体内部の熱伝導が、物体と環境の間の熱伝達に比べて十分に速い場合に有効です。このとき、温度変化は次の式で表されます:
T(t) = T∞ + (T₀-T∞)e^(-t/τ)
ここで:
- T(t):時間tにおける物体の温度
- T∞:環境温度(ここでは20℃)
- T₀:初期温度(ここでは100℃)
- τ:時定数 = mc/(hA)
時定数を計算します:
- m:質量 = 1kg
- c:比熱 = 500 J/(kg·K)
- h:熱伝達係数 = 10 W/(m²·K)
- A:表面積 = 4πr² = 4π×(0.05m)² = 0.0314m²
τ = mc/(hA) = 1×500/(10×0.0314) = 1592s = 26.5分
30分後(1800秒後)の温度は:
T(1800) = 20 + (100-20)e^(-1800/1592)
= 20 + 80e^(-1.13)
= 20 + 80×0.323
= 20 + 25.8
= 45.8℃
集中熱容量法の適用条件は、ビオー数(Bi = hL/k)が0.1以下であることです。ここでL = V/A = (4πr³/3)/(4πr²) = r/3 = 0.0167mとして、
Bi = 10×0.0167/80 = 0.0021 < 0.1
よって、集中熱容量法の適用条件を満たしています。
【問題5】半無限固体の非定常熱伝導
温度0℃の大きなコンクリートブロックの表面を突然100℃に加熱したとき、30分後に深さ5cmの点の温度を求めてください。コンクリートの熱拡散率は8.0×10⁻⁷ m²/sとします。
解法:
半無限固体(十分に大きな固体)の非定常熱伝導問題は、誤差関数(erf)を用いて解くことができます:
T(x,t) = T₀ + (Ts-T₀)[1-erf(x/(2√αt))]
ここで:
- T(x,t):時間t、位置xにおける温度
- T₀:初期温度(ここでは0℃)
- Ts:表面温度(ここでは100℃)
- α:熱拡散率 = 8.0×10⁻⁷ m²/s
- x:表面からの距離 = 0.05m
- t:時間 = 30分 = 1800s
まず、x/(2√αt)を計算します:
x/(2√αt) = 0.05/(2√(8.0×10⁻⁷×1800)) = 0.05/(2×0.038) = 0.658
誤差関数の値は数表やプログラムから求めます:erf(0.658) ≈ 0.658
よって:
T(0.05, 1800) = 0 + (100-0)[1-0.658] = 100×0.342 = 34.2℃
この解法は、半無限固体の仮定が成り立つ場合(つまり、熱が対象となる時間内に固体の反対側まで到達しない場合)に有効です。
複合熱伝達問題の解き方
実際の工学問題では、伝導・対流・放射が同時に発生することが多いです。このような複合問題では、各熱移動形態を適切に組み合わせて解く必要があります。
【問題6】壁面の総合熱伝達
厚さ20cmのコンクリート壁(k = 1.5 W/(m·K))があります。室内側の対流熱伝達係数は8 W/(m²·K)、室外側の対流熱伝達係数は25 W/(m²·K)です。室内温度が22℃、室外温度が-5℃のとき、壁を通過する熱流束と壁の表面温度を求めてください。
解法:
この問題では、室内空気→壁内側表面(対流)→壁体内(伝導)→壁外側表面(対流)→外気(対流)という熱の流れがあります。熱抵抗の直列回路として考えます。
総合熱抵抗は:
R = 1/h₁ + L/k + 1/h₂
= 1/8 + 0.2/1.5 + 1/25
= 0.125 + 0.133 + 0.04
= 0.298 m²·K/W
熱流束は:
q = (T₁-T₂)/R
= (22-(-5))/0.298
= 27/0.298
= 90.6 W/m²
壁の内側表面温度(Ts₁)は:
Ts₁ = T₁ – q/h₁
= 22 – 90.6/8
= 22 – 11.3
= 10.7℃
壁の外側表面温度(Ts₂)は:
Ts₂ = T₂ + q/h₂
= -5 + 90.6/25
= -5 + 3.6
= -1.4℃
この計算から、壁の内側表面温度が10.7℃と室温(22℃)よりかなり低くなっていることがわかります。これは冬場に壁が冷たく感じる理由の一つです。また、壁の外側表面温度は外気温よりわずかに高くなっています。
【問題7】放射と対流の複合熱伝達
表面温度が80℃の加熱パイプがあります。周囲空気温度は20℃、対流熱伝達係数は12 W/(m²·K)です。パイプの放射率は0.8、周囲の物体はすべて20℃と仮定します。パイプから単位面積当たりに失われる全熱流束を求めてください。
解法:
全熱流束は、対流と放射による熱流束の和になります:
q = qconv + qrad
対流による熱流束は:
qconv = h(Ts-T∞)
= 12×(80-20)
= 12×60
= 720 W/m²
放射による熱流束は:
qrad = εσ(Ts⁴-Tsurr⁴)
= 0.8×5.67×10⁻⁸×((273+80)⁴-(273+20)⁴)
= 0.8×5.67×10⁻⁸×(353⁴-293⁴)
= 0.8×5.67×10⁻⁸×(15.5×10⁹-7.4×10⁹)
= 0.8×5.67×10⁻⁸×8.1×10⁹
= 368 W/m²
全熱流束は:
q = 720 + 368 = 1088 W/m²
この例では、対流による熱移動が全体の約66%、放射による熱移動が約34%を占めています。温度差が大きくなるほど、また表面の放射率が高いほど、放射の寄与は大きくなります。
これらの演習問題を通じて、伝熱工学の基本原理を実際の計算に応用する方法を学びました。実際の工学問題では、ここで扱ったような単純化されたモデルを適切に組み合わせることで、複雑な熱移動問題にも対応することができます。数学的な解法だけでなく、物理的な意味を理解し、適切な仮定を置くことが重要です。
まとめ:伝熱工学の学び方と発展的内容への道筋
伝熱工学は工学の基礎となる重要な学問分野です。ここまで学んできた基本概念を整理し、さらに理解を深めるための方向性を示しましょう。伝熱工学の本質を理解することで、様々な工学分野での応用が可能になり、より効率的なシステム設計や問題解決に貢献できるようになります。
重要概念の整理
これまでの章で学んだ伝熱工学の重要な概念を整理します。
熱移動の3つの基本形態は、伝熱工学の基礎となる重要な分類です:
- 熱伝導:物質内部での分子振動によるエネルギー伝達
- 熱対流:流体の移動に伴う熱の輸送
- 熱放射:電磁波としての熱エネルギーの放出と吸収
これらは別々に起こることもありますが、多くの実際の現象では複合的に発生します。どの熱移動形態が支配的かを見極めることが、問題解決の第一歩です。
フーリエの法則は熱伝導の基本法則です。熱流束が温度勾配に比例するという単純な法則ですが、これを基に様々な複雑な熱伝導問題を解くことができます。同様に、ニュートンの冷却則は対流熱伝達の、ステファン・ボルツマンの法則は熱放射の基本となります。
定常状態と非定常状態の区別も重要です:
- 定常状態:時間によらず温度分布が一定
- 非定常状態:時間とともに温度分布が変化
工学設計では定常状態を仮定することが多いですが、起動時や停止時、急激な負荷変動時には非定常解析が必要になります。
熱抵抗の概念は、複雑な熱移動問題を解く際の強力なツールです。電気回路の抵抗と同様に、熱抵抗を直列や並列に組み合わせることで、複合的な熱移動経路を解析できます。熱抵抗 R = L/k(伝導)、R = 1/h(対流)、R = 1/(εσA(T₁+T₂)(T₁²+T₂²))(放射の線形化)として扱います。
無次元数は伝熱現象を特徴づける重要な指標です:
- レイノルズ数(Re):慣性力と粘性力の比、流れの状態(層流/乱流)を判断
- プラントル数(Pr):運動量拡散と熱拡散の比、流体の特性を表す
- ヌセルト数(Nu):対流と伝導の比、熱伝達の効率を表す
- グラスホフ数(Gr):浮力と粘性力の比、自然対流の強さを表す
- ビオー数(Bi):内部伝導抵抗と表面対流抵抗の比、温度分布の一様性を判断
これらの無次元数を使いこなすことで、複雑な伝熱問題も整理して考えることができます。
熱交換器の設計原理も実用上非常に重要です:
- 総括伝熱係数(U)による熱移動の表現
- 対数平均温度差(LMTD)による温度駆動力の計算
- NTU法(伝熱単位数法)による性能予測
効果的な学習法
伝熱工学をより効果的に学ぶためのアドバイスをいくつか紹介します。
理論と物理的イメージを結びつけることが重要です。数式だけを覚えても実際の問題に応用するのは難しいでしょう。例えば、熱伝導方程式を学ぶ際には、「熱は高温から低温へ流れる」「熱の流れは温度勾配に比例する」といった基本的な物理イメージを常に念頭に置きましょう。
日常現象を伝熱工学の視点で考察する習慣も効果的です。例えば:
- なぜ金属は触ると冷たく感じるのか(熱伝導率と熱容量の関係)
- 窓の結露はどのような条件で発生するのか(熱と物質移動の複合問題)
- 鍋で湯を沸かすとき、なぜ底から泡が出るのか(核沸騰の現象)
このように身近な現象を伝熱工学の原理で説明できるようになると、理解が深まります。
段階的に学習を進めることも大切です:
- まず基本原理(3つの熱移動形態と基本法則)を確実に理解する
- 簡単な定常一次元問題を解けるようになる
- より複雑な多次元問題や非定常問題に挑戦する
- 実際の工学問題への応用を考える
演習問題を多く解くことで計算力が身につきます。初めは教科書の例題を丁寧に追い、次に章末問題などに挑戦しましょう。問題を解く際は、答えだけでなく物理的な意味を考えることが重要です。例えば計算結果が常識的に考えて妥当か、パラメータを変えるとどう結果が変わるかなどを考察しましょう。
視覚化ツールの活用も理解を深めるのに役立ちます。温度分布や熱流線をグラフィカルに表示するソフトウェアや、熱移動の様子を示すシミュレーションビデオなどを利用すると、現象のイメージがつかみやすくなります。
次のステップ
基礎を身につけた後、さらに学習を進めるための道筋を示します。
数値解析手法を学ぶことで、解析的に解けない複雑な問題にも取り組めるようになります。有限差分法、有限要素法、有限体積法などの基本的な数値計算手法を学び、実際にプログラミングして解いてみることをお勧めします。現在では様々な伝熱解析ソフトウェアが利用可能ですが、基本原理を理解していることが重要です。
より高度な伝熱現象について学ぶことも重要です:
- 相変化を伴う熱移動(沸騰、凝縮)
- 多成分系の熱と物質の同時移動
- 輻射熱伝達の詳細(形態係数の計算、放射特性など)
- マイクロスケール、ナノスケールでの熱移動
- 非ニュートン流体中の熱移動
専門分野への応用も検討しましょう:
- 熱工学:ボイラー、タービン、熱交換器などの設計
- 電子機器冷却:コンピュータ、パワーエレクトロニクスの熱管理
- 建築環境工学:建物の熱環境設計、省エネルギー
- バイオ熱工学:生体内の熱移動、医療機器の温度管理
- 宇宙熱工学:人工衛星や宇宙船の熱制御
最新の研究動向にも目を向けましょう。伝熱工学は歴史ある学問分野ですが、今も活発に研究が進められています:
- 新しい高効率熱交換器の開発
- ヒートパイプなどの高性能熱輸送デバイス
- 相変化材料(PCM)を用いた蓄熱技術
- マイクロチャネル冷却技術
- 再生可能エネルギーシステムにおける熱管理
実験技術についても学ぶことをお勧めします。理論だけでなく、温度測定技術、熱流束測定、可視化技術などの実験的アプローチも伝熱工学では重要です。実験と理論の両面から現象を理解することで、より深い知見が得られます。
数理科学との融合も注目されています。機械学習や最適化手法を伝熱問題に応用する研究も増えています。大規模データを活用した熱設計や、熱システムの最適制御などは将来性のある分野です。
最後に、学びを実践に活かすことが最も重要です。学んだ知識を使って実際の問題を解決してみましょう。例えば、自作PCの冷却設計、住宅の断熱改善、調理器具の熱効率向上など、身近なところから始めることができます。理論と実践を往復することで、伝熱工学の理解はさらに深まります。
伝熱工学は工学の基礎となる重要な学問分野であり、エネルギー、環境、情報通信など様々な分野で活用されています。基礎をしっかり固め、それを応用していくことで、複雑な熱問題も解決できる力が身につくでしょう。
※記事の内容についてのお問い合わせは受け付けておりません。

